設計教室2021 第3回 報告
2021.08.30 カテゴリ:視察ツアー, 設計セミナー タグ:
2021年 第3回をオンラインで開催。
7月14日・15日に、第3回目を開催いたしました。今回は会議室に講師の先生がたにお集まりいただき、ライブ配信での実施です。
今回のゲスト講師・審査員は、若原一貴さん、丸山弾さん にお越しいただきました。
丸山 弾 氏/丸山弾建築設計事務所:https://www.dan-maruyama.com/
<1日目>
基本編の講義は2つ。まずは、丸山弾さんの講義「大切なことは目に見えない」。これまで出会ってこられた建築や風景、設計される時に基本とされていること、そして「永山の家」、「石神井の家」、「宇都宮の家」、「町田の家」などのご自身の作品を通して、〝目に見えないもの=余白”をの具体的な表現方法について紹介いただきました。
◎窓を活かす外部空間を複雑にせず、ひとつの大きな方向性で考える。
◎それぞれの関係性がわかるよう、詳細図は枠・家具・設備・家具をまとめて描く。
◎暗いところをつくることで明るいところを引き立たせる。明暗のバランスを図る
◎高低差をつけると植栽や土が近く感じられること、そこから見える景色の意外性の例
◎植栽は奥行増幅装置
◎空間の奥行や複雑さを意識する
◎屋根のかけ方の考え方
◎空間の隅を増やすと居場所が増える
◎空間の高低差と外への繋がり
◎物と物が交差するところが綺麗であれば、異素材でも美しく納まる
◎空気が止まりそうなところに開口部をあける
◎窓にも奥行きを出す
◎音も緩やかに繋げる
など、数々の図面や写真を交えて、丸山さんの培ってきたものを惜しみなく披露してくださいました。
*
続いては、若原一貴さんの講義「住宅設計における普遍性と特殊性」です。著書である、「小さな家を建てる」の内容とは少し違う内容を話そうと思う、と始まった講義は、「上がり屋敷の家」「南沢の小住宅」「清瀬の小住宅」「辻堂の家」「文京区の家」「岡本の小住宅」など9つの作例を通して、小さな家に限らない建築の普遍性・本質的な部分についてお話いただきました。
◎間取りの概念では設計しない
◎光が入り景色が見えることで場所は生まれる
◎構成要素を少なくして住まい手の色に染まっていく住まいがよい
◎がらんどうな家の断面の設計を丁寧に行うことで豊かな家になる
◎断面の設計によって空間の質は大きく変わる
◎空間の質、空間の領域をどう関係づけていくか
◎過ごし方に応じた、その場に相応しい寸法で設計する
◎ディテールも含めてシンプルな、オーソドックスな着地点になるよう心掛けている
◎住み手に合わせて設計するのではなく、その場に相応しい寸法で設計したい
◎街や暮らしは変化するが、内部空間はその変化を許容できるものにしたい
◎空間の質を決めるディテールをしっかり設計すれば、住まい手が変わったとしても心地よく住める
など、住宅が持つ普遍性を表現するポイントを、設計図や写真を交えて具体的にご紹介いただきました。
伊礼さんからは「若原さんは普遍性が強い建築家だと思うが、若原さんの思う特殊性とは何か?」という問いがあり、「住まい手によって条件が違うため、それが特殊性になる。特殊性を意識しながらも、それらを支える普遍性(機能に縛られず暮らしが変わっても変わらないもの)をしっかりと意識してほしい」という言葉で締められました。
その後のオンライン懇親会では、伊礼さんを含めた講師の先生方が影響を受けた建築家や、オススメの本の紹介、また若原さんの講演をスケッチで書き留めておられた丸山さんのノートを公開し、「レポートはスケッチで書くとまとめるしわかりやすいです」とアドバイスいただきました。
*
2日目は上級編の即日設計です。今回はこれまでと指向を変え、「参加者それぞれが施主を設定(実在する人物)し、その人物がひとりで使うアトリエを3時間で設計する」という課題になりました。敷地は、目白駅から徒歩10分の「中村彝アトリエ記念館」の敷地を想定。施主の生活やアイディンティティを踏まえた上でプランニングをすることが求められ、それぞれ想定した施主名と共に発表することとなりました。
敷地は目白界隈の広大な敷地で、それをひとりで使うという贅沢なもの。自由度が高く、各自が思う施主のバックグラウンドにまで想いを馳せた設計に、みなさんいつも以上に頭を悩ませておられるようでした。
建物配置やファサード、内部空間のつくり方など、その場で先生方から積極的に添削が行われました。
ところで、皆様が想定された施主が多種多様でおもしろい。絵本作家、陶芸家、小説家、画家、漫画家、写真家、音楽家、料理家、映画監督、アニメーター等々多岐に渡り、誰もがわかる方もいらっしゃれば、解説を聞きどのような方かを思い浮かべるような場面もあり、本質的な部分に深く考えが及んでいるか、その方らしさが表現されているかという点も評価の対象となりました。また広大な敷地の活かし方についても、街に開く方、閉じる方、お庭のとり方、建物の配置など、個性が見られましたが、自由度が高いせいか、メリハリやまとまりに欠ける、作り込みすぎる、「設計をしなくてはいけない」という強迫観念に近いものを感じる、等、厳しい指摘も多く見られました。また施主に一定の社会的地位が考えられることから、その場に、その施主に相応しいかどうか、という観点も加わりました。これまでにない課題であったこともあり苦戦された方が多かったように思いますが、その中で、最優秀賞として、審査員から4票を集めたシーズグロースアーキテクトの成清 幸さん(初参加・初受賞)と、審査員から3票と参加者票1位を獲得したOKUTAの小山 祐理子さん(今クール初受賞)が、同率で選ばれました。おめでとうございます!
また今回は今クールの最終回となり、これまで行われた3回の即日設計を通しての得票数から総合受賞者の発表もありました。中でも、第一回目:審査員4票、参加者票1位、第二回目:審査員賞3票、参加者票1位、第三回目:参加者票3票を獲得されたアトリエウィの宇佐美 愛さんが、総合最優秀賞に選ばれました。宇佐美さん、おめでとうございます!
今クールは、基本編に60名近くの方が、上級編には24名の方が参加され、上級編に参加された方の約4割が初参加でした。3回を通じて、設計力とプレゼン力がメキメキと上達されていくのを目の当たりにし、大変有意義な時間であったことを嬉しく思いました。次回も皆様にお会いできることを楽しみにしています。
2021年 第3回 投票結果
成清 幸さん | 4票 | 小山 祐理子さん | 4票 |
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高森 喜洋さん | 3票 | 前川 桂恵三さん | 3票 | 宇佐美 愛さん | 3票 |
松本 孝充さん | 1票 | 小嶋 健二さん | 1票 |
伊礼 智さん作例 / 想定した施主:土井善晴さん(料理家)
丸山 弾さん作例 / 想定した施主:haruka nakamuraさん(音楽家)
成清 幸さんの作品 / 想定した施主:小野不由美さん(小説家)
小山 祐理子さんの作品 / 想定した施主:宮崎駿さん(映画監督)
2021年 設計教室 総合受賞者
最優秀賞
- ・宇佐美 愛さん(アトリエウィ/宇佐美愛建築設計事務所)
優秀賞
- ・高森 喜洋さん(美し信州建設 株式会社)
- ・松本 孝充さん(松本設計)
佳作
- ・小嶋 健二さん(株式会社アグリトライ)
- ・石貫 希生さん(株式会社石貫工務店)
- ・前川 桂恵三さん(前川建設 株式会社)
新人賞
- ・成清 幸さん(シーズグロースアーキテクト 株式会社)
特別賞
- ・小山 祐理子さん(株式会社OKUTA)
プレゼン賞
- ・金澤 智枝さん(環境デザインワークス)
2021年度 設計教室 はこれにて終了です。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
今後の更なるご活躍をお祈り申しあげます。